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東京高等裁判所 平成8年(ネ)5607号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金二三〇万円を支払え。

三  控訴人の不当利得返還請求及びその余の損害賠償請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

五  この判決第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金二億四七五七万九五一八円を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被控訴人との間で変額保険契約を締結した控訴人が、同契約の錯誤による無効又は詐欺による取消し及び被控訴人の担当者の勧誘行為が不法行為に当たることを主張して、主位的に、支払済保険料一億四七九〇万一六〇〇円の不当利得返還を請求し、予備的に、使用者責任に基づく損害賠償として、同保険料相当損害金を請求するほか、使用者責任に基づく損害賠償として、同保険料の支払等のために銀行借入れして負担した金利計八一三四万三五二三円、抵当権設定等費用三五八万七八二八円、慰謝料一〇〇〇万円及び弁護士費用相当損害金四七四万六五六七円の合計九九六七万七九一八円を請求した事案である。なお、控訴人は、原審で、支払済保険料一億四七九〇万一六〇〇円の不当利得返還並びに金利計六五二〇万六八二五円、抵当権設定等費用三五八万七八二八円及び弁護士費用相当損害金六八七万九四六五円の合計七五六七万四一一八円の損害賠償並びにこれらに対する遅延損害金を請求し、これが棄却されたところ、当審において右のとおり請求を拡張(一部減縮)したものである。

二  争いのない事実等

次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の第二の一(原判決四頁一〇行目から八頁六行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六頁一行目の「保険契約」の次に「(死亡保険金受取人静子。以下「本件一変額保険契約」という。)」を、同行目から同二行目の「保険契約」の次に「(死亡保険金受取人控訴人。以下「本件二変額保険契約」という。)」をそれぞれ加える。

2  八頁六行目の次に改行して次のとおり加える。

「6 控訴人は、当審において、平成一〇年一〇月二〇日、一審被告銀行及び利害関係人ダイヤモンド信用保証株式会社との間で、訴訟上の和解をし、これにより、本件消費貸借契約について、残債務元本額一億五六〇〇万円、元金返済期日平成二七年八月二六日、優遇金利(和解時点で年2.0パーセント)適用等の変更がされた(本件記録)。

7 控訴人が一審被告銀行に対して負担する本件消費貸借契約(ローン契約分、右変更後のもの)に基づく借入金に対する利息合計額は、平成一一年四月二六日までに六七二六万五八六六円となった。

そして、被控訴人は、右利息の支払のため、一審被告銀行から融資を受けているところ、これに対する利息合計額は、平成一一年四月五日までに一四〇七万七六五七円となった。」

三  争点

次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」の第二の二(原判決八頁八行目から九頁三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八頁末行の「被告らの各従業員」を「被控訴人の従業員坂中ら」に改める。

2  九頁三行目の次に改行して次のとおり加える。

「3 被控訴人の従業員の勧誘行為が違法である場合に、控訴人に損害が発生しているか。発生している場合に、その損害額はいくらか(過失相殺を含む。)。」

四  控訴人の主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第二の三(原判決九頁五行目から二三頁一行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三頁八行目の「高橋は、」の次に「私製資料の使用の禁止に違反した」を加える。

2  一五頁三行目の「九パーセント」の次に「(銀行金利を七パーセント)」を加える。

3  一六頁八行目の次に改行して次のとおり加える。

「しかも、本件勧誘当時、既に変額保険の運用状況は悪化しており、平成二年四月から六月の間、月によってはマイナスの運用状況であったところ、坂中は、社内資料でこのような運用状況を知りながら、これを秘匿して、一二、三パーセントの運用になると虚偽の説明をして勧誘したものである。」

4  一六頁九行目の「設計書」の前に「九パーセントのほか、4.5パーセント及び〇パーセントの各運用例を記載した」を加える。

5  一七頁六行目の「及び阿部」を削る。

6  一八頁五行目の「不当利得返還請求権に基づき、」の前に「主位的に、」を加え、同六行目の「及び」から同八行目の「遅延損害金」までを削る。

7  一八頁九行目の「争点2」の次に「及び3」を加える。

8  一九頁末行の「右行為は、」の次に「本件変額保険契約が無効(取消しを含む。)とされるか否かにかかわらず、」を加える。

9  二〇頁二行目から二一頁四行目までを削る。

10  二一頁五行目から二三頁一行目までを次のとおり改める。

「(二) 損害

(1) 右2(二)の請求が認められない場合に、予備的に、支払済保険料一億四七九〇万一六〇〇円を損害賠償として請求する。

(2) 控訴人は、一審被告銀行に対し、本件消費貸借契約(ローン契約分)に基づく借入金に対する利息として、平成一一年四月二六日までに六七二六万五八六六円を支払った。

そして、控訴人は、右利息の支払のため、一審被告銀行から融資を受けたが、これに対する利息として、平成一一年四月五日までに一四〇七万七六五七円を支払った。

(3) 控訴人は、本件消費貸借契約による借入債務を担保するため本件不動産について根抵当権を設定したが、それらの費用として三五八万七八二八円を支払った。

(4) 控訴人は、被控訴人担当者の違法な勧誘を受けた結果、本件変額保険に加入することになったため、平成二年暮より現在まで悩み、被控訴人との交渉、訴提起、訴訟の進行等の心労を被っており、また、同様に悩んだ妻静子が病気に倒れ、平成三年以降の人生は受難の生活を余儀なくされており、これを慰謝するには、一〇〇〇万円を下らない。

(5) 本件訴訟の追行は、弁護士なしでは事実上困難であり、弁護士の選任とそれに伴う弁護士費用の支出は、相当因果関係のある損害であるところ、本件事件の性質よりすれば、右弁護士費用相当損害額は四七四万六五六七円が相当である。

(6) よって、前記2(二)又は右(1)のほかに、右(2)ないし(5)の合計額九九六七万七九一八円を損害賠償として請求する。

(7) 本件変額保険契約の錯誤による無効又は詐欺による取消しが認められない場合に、控訴人は保険金請求権を有するが、これは保険事故発生時に発生するという将来の発生が不確定な債権であり、かつ、保険会社の信用が将来にわたってもあることを前提とするものであり、このような性質の債権があることをもって現実に金銭を出捐した損害を現時点で補填できるものではないから、保険金請求権が控訴人にあることを理由に損害が発生していないことにはならない。

そして、被害者が損害賠償請求権を行使すれば、その範囲内で賠償者(保険会社)は代位するから、保険会社はその後保険事故が発生すればその損害額の限度で保険金の支払を控除し(相殺又は混同による消滅)、残債権を被害者に支払うことになる。また、被害者が損害賠償請求権を行使しないまま保険事故が発生し、保険金支払請求権を行使した場合、損害賠償との関係で損益相殺が現実化するから、被害者はその額を差し引いて残りがあれば損害賠償請求することになる。

仮に、除斥期間である二〇年が経過しても、金利等を含めても基本保険金合計二億八〇〇〇万円に達しなければ、その時点をもって争えなくなり、その後損害が発生・拡大しても法的救済を受けられなくなるのは不合理であるから、現時点の損害額が基本保険金額を超えないからといって損害賠償請求が認められないと解することは相当でない。

しかも、控訴人が受取人として有する基本保険金支払請求権は本件二変額保険契約の一億四〇〇〇万円であり、現在控訴人に発生している損害は、右基本保険金を上回っており、損害が具体化している。」

五  被控訴人の主張

次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の第二の四(原判決二三頁三行目から二四頁四行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二三頁三行目の冒頭に「1」を加える。

2  二四頁四行目の次に改行して次のとおり加える。

「2 被控訴人においては、変額保険契約全体の運用実績について、平成二年四月時点では、契約加入後一年以上経過したものについて作成、開示していたもので、平成三年三月から六月にかけて加入後一年以内のものについても作成、開示したものであるから、坂中が本件勧誘当時変額保険の運用状況が悪化していたのを知りながら、これを秘匿したことはあり得ない。また、坂中が一二、三パーセントの運用になると説明したことはない。

3  損害について

本件変額保険契約が有効である以上、支払済保険料を損害とみることはできない。

また、借入金利息等についても、現在、基本保険金額の支払により完済できる状態にあり、将来にわたり完済できる状態が継続する以上、現実の損害は未だ発生していないといわざるを得ない。なお、受取人を静子とする本件一変額保険契約についても、契約者は控訴人であり、受取人は今後とも変更できるのであるから、経済的利益を受けているのは控訴人自身である。

4  過失相殺

控訴人の学歴、経歴等に照らせば、控訴人に変額保険の仕組みを十分に理解する能力があったことは明白であり、加入決定までに要した期間が比較的長期間であり、十分な検討期間があったことも併せ考慮すれば、控訴人には重大な過失があった。」

第三  当裁判所の判断

一  本件変額保険契約の締結に至る経緯等についての事実認定は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第三の一(原判決二六頁三行目から五一頁二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二六頁三行目の「甲」の次に「第一号証、第三ないし第五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証、第一三及び第一四号証の各一、二、第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、」を加え、同四行目から五行目の「及び第四二号証」を「、第四二ないし第四五号証、第四八号証及び第五二号証」に改める。

2  二七頁八行目の「静子は、」の次に「教員資格を有し(控訴人と結婚して教員を退職した。)、」を加える。

3  二八頁末行の「のほか」から二九頁一行目の「同形式のもの)」まで及び、二九頁九行目から三一頁五行目までをいずれも削り、同六行目の「さらに、」を「右」に改める。

4  三二頁五行目の「含まれていなかった。」を「途中でコピーが切れており、全部は判読できない状態であった。」に改める。

5  三四頁一〇行目の「勤務先」の次に「(伊藤忠商事株式会社)」を加える。

6  四〇頁八行目の「これには、」の次に「変額保険は主契約の保険金額が資産の運用実績に基づいて増減する仕組みの保険である旨説明及び図示され、特別勘定資産の運用実績が九パーセント、4.5パーセント及び〇パーセントの各場合について死亡・高度障害保険金額が経過年数によってどのような額になるかを例示した表が掲載されるなどして、」を、同九行目の「また、」の前に「これに対して、控訴人は、従前の坂中の変額保険の運用利回り等についての説明が右記載と異なるなどの抗議をしたことはなかった。」をそれぞれ加える。

7  四一頁三行目の末尾に「これに対しても、控訴人は、従前の坂中の変額保険のリスクについての説明が右記載と異なるなどの抗議をしたことはなかった。」を加える。

8  四一頁四行目から同七行目までを次のとおり改める。

「(六) 本件一変額保険契約の変動保険金は、平成三年三月時点でマイナス一一〇一万二九〇〇円、同年七月時点でヤイナス一四八六万六三〇〇円、同年八月時点でマイナス一五五五万四〇〇〇円及び平成四年五月時点でマイナス四四五八万六六〇〇円であり、その解約返戻金は、右各時点でそれぞれ七一六三万六〇八三円、六九〇六万九六一六円、六九一八万三八五二円及び五五九八万六〇六一円であった。

また、本件二変額保険契約の変動保険金は、平成三年三月時点で九三九万二八〇〇円、同年七月時点で四九九万八四〇〇円及び平成四年五月時点でマイナス二八七四万三三〇〇円であり、その解約返戻金は、右各時点でそれぞれ七二四〇万三三五五円、六九九二万二七七三円及び五七四三万四五四九円であった。

(七) 控訴人は、平成三年三月になって本件変額保険の運用状況を右(六)のとおり確認し、本件変額保険について運用利回りが悪いことを知って心配し、それ以後、たびたび坂中(平成四年四月に名古屋に転勤になった。)に相談するようになった。その際、控訴人は、坂中に対し、勧誘行為に問題があったことを責めるようなことはなかった。これに対して、坂中は、二、三年経てば回復するので、心配ない旨の返答をしていた。

その後、右(六)のとおり運用利回りがますます悪化してきて、もともと保険加入に消極的であった妻からも土地が差し押さえられるなどと責められ、控訴人は、このままでは銀行への金利の支払のための融資枠がなくなり、担保に入れた土地が差し押さえられてしまうことを心配し、坂中に相談したところ、坂中から、銀行が精算を強制することはないので、保険金で精算すればよく、そのために保険への質権設定が考えられるとのアドバイスを受け、一審被告銀行担当者にも相談し、土地を差し押さえて精算するようなことはないとの返事をもらった。妻は、心労のため、体調を崩してしまい、控訴人もその看病に追われた。

控訴人は、その後も、坂中に相談し、抜本的な解決策を求めたが、良策はなく、株価の回復を待つしかないとされ、坂中に不信感を持つようになり、同時に、保険の解消(ただし、解約ではない。)を考えるようになり、平成六年になって複数の弁護士に相談の上、本訴を提起するに至った。

(八) 被控訴人の社内報「エクセレントニュース(平成三年三月号)」によると、個人変額保険特別勘定の平成三年二月末運用実績(一時払契約の年換算騰落率)は、昭和六一年一一月契約の9.17パーセントを最高に契約日の経過に従って逓減しており、平成元年九月契約以降はマイナスに転じている。右書面には、今月号から経過一年未満契約の騰落率も掲載するとあり、平成二年四月から同年七月契約まではマイナスになっている。

また、日経マネー平成三年一月号によると、被控訴人の変額保険の運用成績(特別勘定資産へ投入した金額の平成二年九月末日時点の伸び率)は、昭和六一年一〇月加入の34.6パーセントから加入年月の経過に従って逓減し、昭和六三年一一月加入からマイナスに転じている。

(九) 控訴人は、現状では、解約返戻金額が支払済保険料をかなり下回ることもあり、本件変額保険契約を解約する意思はない。そして、今後、銀行借入金利が高くなり、支払金利が貸付枠を上回り、銀行から現実の返済を迫られる事態に至ることや、保険料、金利等の借入額の合計額が保険金額を上回り、現実に損害が発生することを極度に心配している。」

9  四一頁八行目から四五頁七行目までを次のとおり改める。

「2(一) 変額保険契約について説明したパンフレット(甲第二七号証)や、勧誘する契約内容について保険料や運用実績を九パーセント、4.5パーセント及び〇パーセントの各場合に分けて記載した設計書(乙第一号証と同形式のもの)の交付の有無について、控訴人は、設計書を交付されたことはなく、パンフレットは契約締結後である平成二年九月ころに高橋が持参してきたと主張、供述(甲第三一号証及び第四二号証を含む。)し、静子も同旨の陳述書(甲第四五号証及び第五二号証)を作成しているのに対し、坂中及び高橋は、パンフレット及び設計書を最初の勧誘の時に交付したと供述(乙第六及び第七号証を含む。)する。

まず、パンフレットについては、通常、本件契約の種類毎に作成され、当該保険の概要を説明したものであるので、本件勧誘の初期の段階において勧誘員から顧客に対して交付されるのが通例であり、このことは保険加入の経験のある者(控訴人及びその家族もそうである。)であれば承知していることであり、本件において、坂中及び高橋が勧誘段階であえてこれを交付せず、契約締結後に至り交付したとは考えにくく、控訴人において、本件変額保険契約締結時にパンフレットより詳しく変額保険について説明してある「ご契約のしおり」の交付を受けた後も、坂中らの変額保険の説明等の勧誘行為をとりたてて問題としていないことなどに照らしても、平成二年四月中旬ころの最初の勧誘時に交付されたものと認めるのが相当である。

次に、設計書については、坂中は、その後の勧誘時や本件変額保険契約に係る分は作成、交付しておらず、専らシミュレーション表に基づいて説明、勧誘したと供述するのに対し、高橋は、同月下旬ころの勧誘時や本件変額保険契約に係る分も作成又は交付したと供述するが、いずれの供述も極めてあいまいであり、かつ、このように重要な部分において齟齬していることに照らすと、同人らの供述は直ちに信用できず、しかも、交付されたとする設計書がどのようなものであったかについて再現がされておらず、かつ、坂中において一貫して運用実績を九パーセントとするシミュレーション表しか作成していないことなどに照らすと、本件変額保険契約に係る分の設計書が交付されたと認められないのみならず、最初の勧誘の時にも設計書が交付されたとは認め難い。」

10  四五頁八行目の「さらに、」を「次に、」に改める。

11  四八頁二行目の「さらに、」から同八行目の「前にして、」までを「また、控訴人は、変額保険の仕組み等を説明した「ご契約のしおり」や変額保険のリスクを警告した書面等を高橋から受け取った後も、坂中の変額保険の運用実績等についての説明が事実と異なるものとして抗議等をしていない。さらには、本件変額保険契約の運用実績が悪化していった際にも、控訴人は、坂中に善後策を相談するのみで、坂中の説明が虚偽であったなどと抗議していない。これらの事情に照らすと、坂中が、」に、同末行の「考えられず、」を「認められず、」にそれぞれ改める。

二  争点1(錯誤による無効又は詐欺による取消しの成否)について

当裁判所も、右の点についての控訴人の主張は理由がないものと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」の第三の二1(原判決五一頁五行目から五二頁一〇行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

したがって、控訴人の支払済保険料の不当利得返還請求は理由がない。

三  争点2(不法行為の成否。過失相殺を含む。)について

以上に認定の事実によれば、以下のとおり判断できる。

すなわち、控訴人は、本件変額保険契約の締結に当たって、変額保険の保険料が株式等に投資されて運用されるものであり、そのためその運用実績に応じて保険金額が変動し、運用実績が支払金利の利率を下回るなどすると損失を被る危険性があることを理解していたものと認められるから、坂中において右変額保険の危険性を含めてその仕組みを説明したものと推認されるところである。しかしながら、坂中においては、被控訴人の変額保険の運用実績について一貫して九パーセント(銀行金利について年七パーセント)の数値のみを使用して自らシミュレーション表を多数作成し、専らこれに基づいて控訴人及びその家族に相続税対策のために変額保険に加入することを勧誘したものであり、被控訴人の変額保険の運用実績が九パーセントを下回ることがないような説明までしていたものであるところ、当時の被控訴人の変額保険の運用実績は、到底九パーセントに及ばないものであったことが推認されるのであり、坂中が本件勧誘当時九パーセントの運用実績が期待できるような説明をしたことについては合理的な根拠は存しなかったものと認めざるを得ない(被控訴人は、右の点については何らの立証をしようとしていない。)。坂中の右説明、勧誘行為は、大蔵省通達(甲第二号証)が禁止する将来の運用実績についての断定的判断の提供に当たるものといってよく、しかも、その合理的根拠がなかったものである上、保険業界の自主規制(弁論の全趣旨)で禁止している私製資料を使用して行っているものであり、社会的に許容し得る範囲を逸脱したものというべきであり、違法なものといわざるを得ない。

そして、控訴人は、最終的には、坂中の右説明を信頼して家族らも説得して本件変額保険契約の締結に踏み切ったものと認められるから、被控訴人は、控訴人が本件変額保険契約の締結によって被った損害について使用者責任に基づく損害賠償責任を負うものである。

ただし、控訴人においても、変額保険の危険性については知っていたものであり、このような危険性のある保険への加入については自己の判断と責任において行うべきものであるから、最終的に坂中の説明を信頼して本件変額保険契約の締結に踏み切ったことについては、控訴人にも相当程度の過失(落ち度)があったものといわざるを得ず、被控訴人をして賠償させるべき損害額の算定に当たっては、このことを斟酌すべきであり、本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、控訴人に生じた損害について六割の過失相殺をするのが相当であると判断する。

四  争点3(損害の発生の有無及び額)について

1  支払済保険料について

本件変額保険契約は有効であり、控訴人は、その保険契約者としての地位(保険契約上の利益を受ける地位)を有しているのであるから、支払済保険料を損害とみる余地はない。この点についての控訴人の主張は独自の見解であって採用することはできない。

2  借入利息及び根抵当権設定等費用について

控訴人は、本件変額保険の保険料及び銀行借入れのための根抵当権設定等費用の全額を一審被告銀行から借入れして支払い(同銀行との和解後の元金一億五六〇〇万円)、その借入金利息についても同様に一審被告銀行から借入れをすることとし、その借入金の元利合計額を本件変額保険の死亡保険金で返済することとしていたものであり、控訴人は、全く現実の出費をしていない。そして、本件変額保険の運用実績は、控訴人が契約締結に当たって予想していたところを下回るものであったが、本件口頭弁論終結時点で判断して、右借入金の元利合計額を基本保険金額により完済できる状態にあり(約四一八〇万円の余剰がある。また、これを上回る約四七八〇万円の融資枠が残存している。)、かつ、現在のような低金利の状態の下では、変動保険金額がプラスに転じなくても相当期間にわたって完済できる状態にあるといえるから、保険料及び根抵当権設定等費用支払のための借入れに、これに対する既に発生した利息を考慮しても、現実の損害は未だ発生していないといわざるを得ない(控訴人が本件変額保険契約を維持する以上、経済情勢の変動によって、将来、変動保険金額がプラスに転じる可能性もあるところである。)。なお、控訴人は、控訴人が受取人として有する基本保険金支払請求権は本件二変額保険契約の一億四〇〇〇万円にすぎず、控訴人の主張する損害合計額がこれを上回っているから、損害が現実に発生し、具体化していると主張するが、控訴人主張の損害は本件二変額保険契約にのみ対応するものではなく、本件一変額保険契約を含む本件変額保険契約全体に対応するのであるから、本件変額保険契約との対比により損害の発生の有無を検討すべきものであり、控訴人の右主張は失当である。また、本件変額保険契約の締結は、相続税対策であるから、保険金から借入金元利合計額を支払った余剰金をもって相続税の支払に当てることが想定されているところ、この点についての当事者の主張・立証がないので、検討する余地がないのみならず、相続税額が発生、確定するのは、被相続人死亡時点であるから、いずれにしても、現時点で損害が発生、確定しているということはできない。

3  慰謝料について

前記認定説示によれば、控訴人は、被控訴人担当者の違法な勧誘行為により本件変額保険契約を締結したもので、これによりその後平成三年三月ころ以降現在まで悩み、被控訴人との交渉、訴提起、訴訟の進行等に追われ、さらには、現実的な財産的損害の発生の有無が控訴人自身又はその妻の死亡時期にかかっていることなどから、少なからぬ心労を被っており、また、同様に悩んだ妻静子が体調を崩し、控訴人において看病を余儀なくされるに至っていることが認められる。そうすると、控訴人は、被控訴人担当者の違法行為により少なからず精神的苦痛を被っているというべきであり、この精神的損害は現に発生しているものであるから、被控訴人において、これを金銭で慰謝することが相当と認められるところ、右慰謝料は、本件にあらわれた諸般の事情に照らすと、五〇〇万円とするのが相当であり、これに前記過失相殺をすると、二〇〇万円となる。

4  弁護士費用について

右認容損害額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用相当損害金額は、三〇万円をもって相当と認める。

5  以上のとおりで、被控訴人は、控訴人に対し、本件について既発生の損害として二三〇万円を賠償すべきである。

五  よって、控訴人の請求(当審において拡張した請求を含む。)は、右四の5の限度で理由があり、その余はいずれも理由がないから、これと一部異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 沼田寛)

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